『The Shape of Water(シェイプ・オブ・ウォーター)』を観た。
オタク大好きギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』を観たので軽くレビュー。
この映画は第90回アカデミーで4冠、ヴェネツィア国際映画祭でも最高賞である金獅子賞を戴冠と評価の高い作品である。
冷戦時代のアメリカが舞台であり、他の国を出し抜くため捉えられた異形の化物と発話障害を持つ女性主人公のラブストーリーだ。一言で言うとデル・トロ版人魚姫。一昔話題になったロボットアクション映画(?)である『パシフィック・リム』とは違い、『パンズ・ラビリンス』に似た暗い、ノスタルジー溢れる作品である。
【雰囲気】
モンスターの造形ばかりに目を奪われがちだと思われるデル・トロ作品であるが、特筆すべきは映画全体を通して雰囲気作りの上手さであると思う。以下のトレーラーを見てもらえればその素晴らしさがひと目で分かる。自分は冒頭の水のシーンで一気に引き込まれた。
全体を通して青みがかかった画と幻想的な音楽でロマンチックなファンタジー作品に仕立て上げている。これにより異形の怪物が相手であるにも関わらず、切ないラブストーリーであると違和感なく受け入れられた。
【内容】
内容に関しては正直可もなく不可もなくといった所。ポリティカルコレクトネス、所謂差別に対する配慮、に沿った要素が多々あり、それが評価され多くの賞を受賞した所以だろう、というのが素直な感想。
・主人公が障害持ち
・異形との愛
・主人公の友人がゲイである
・主人公に黒人の親友がいる
と、いかにも現代のアメリカ人が評価しそうな要素が満載。ただし、これらの要素により作品の質が落ちているかと言われるとそういう訳ではない。素晴らしい作品であることには間違いないのだが、あからさまなポリコレ要素が多く目についてしまった。正直これは見る人の文化背景によって見方が変わってしまうものだと思う、自分が日本人でなければそこまで気になる要素ではないのだろう。
以前観た『華麗なるギャッツビー』もそうなのだが、やはりアメリカ向けの映画はアメリカ人の感性でしか分からない良さというものがあるように思われる。
『華麗なるギャッツビー』はアメリカンドリームと悲劇を上手く組み合わせた映画であり、アメリカ人の心を掴んでいる。ただここでもやはりアメリカンドリームに憧れや馴染みのない自分では、そこまで長年愛されている理由というのがあまり理解出来ず。文化背景を理由にした共感が出来なければ作品を楽しめないと初めて理解した映画であった。
【モンスター】
次にモンスターの造形なのだが、どうにも自分にはデル・トロの造形が合わないらしい。歪なモンスターとの恋というコンセプトな映画であるからモンスターらしいこの造形は正解であるのであろうが、もう少し美しいと感じられる造形が良かったな、と。パシフィック・リムのイェーガー(ロボ)に関しても不格好さを感じてしまいあまり好きになれなかった。デル・トロの造形はアメコミチックというか格好良さ、スタイリッシュさを感じられない。
ただ、『パンズ・ラビリンス』のような摩訶不思議世界に於いてのデル・トロの造形は好きであった。よく見るコイツとかキモくて最高。
正直モンスターの造形に文句言ってる時点でこの映画の真意を台無しにしてるじゃないか、と思わなくもないのだが、こればかりは仕方ない、だって男の子なんだもん。
ギーガーのゼモノーフと言わないまでも、近しい美しさがある造形であったらこの映画をもっと好きになっていたと思う。
【異形との愛の美しさ】
発話障害を持ち社会と距離を感じている主人公と、自分の本当の心だけを見てくれる異形との愛。やはり精神的な愛というものは美しいものであると実感させられる。
また、相手が異形であるので自分の心が伝わらないという主人公の葛藤のシーンも愛の複雑さを表していて良かった。このシーンだけミュージカルを模しているという面白い表現がなされている。
ラブストーリーなので作中で主人公がモンスターと愛を交わすシーンが勿論ある。これは精神的なものだけではなく性交が可能であることを主人公の友人に説明するシーンがあったりと結構生々しい、ただ、これにより一層現実感が増すのも確か。
中でも見せ場であるこのシーンはとても良かった。対して美人でもない主人公の艶やかさが半端ない。多分これは画像では分からないであろうから実際に観て欲しい。
【総評】
ここまで色々と述べてきたが、最初に記載したようにデル・トロ監督の裁量で素晴らしい雰囲気の映画となっており、切ないラブストーリーであることは間違いがなかった。同じ題材であったとしても違う監督が制作していたのであったらここまで素晴らしい作品にはならなかっただろう。
個人的な好みを除いても是非オススメしたい一本だ。
最近これと似たコンセプトの『沙耶の唄』のノベライズ版がやっと届いてウキウキ。異形との真実の愛が好きな方はこちらも是非。